人命を救う社会貢献度に惹かれ、消防設備士という仕事に興味を持っている。
ただ、消防設備士の仕事って実際どうなんだろうか。激務薄給という噂もあるし、年収、残業、働き方などの実態が知りたい。
このようなことをお考えの人は多いのではないでしょうか。
本記事を書いている私は、消防設備甲種4類資格を保有しており、新卒から約10年間防災メーカーで働いてきました。
そして、その経験から言えるのは消防設備士の仕事は激務薄給のパターンが多いので、消防設備士の仕事に心から喜びを感じる人以外はやめたほうが無難だということ。
今回は、過去防災メーカーで勤務していた私が消防設備士の仕事内容や実態について解説していきます。
※本記事では一部プロモーションが含まれています
本記事の内容
- 1.消防設備士はやめとけ?元業界人の見解
- 2.消防設備士の仕事が辛いのは建設業界の風習が主な要因
- 3.消防設備士の年収
- 4.消防設備士に向いている人の特徴
1.消防設備士はやめとけ?元業界人の見解
結論、消防設備士の仕事に強いこだわりが無い限りはやめとけというのが私の意見です。
その理由はこんな感じ。
<消防設備士をオススメしない理由>
- 激務
- ルーティンワークが多い
- 休みが少ない
- 責任が重い
- 朝早く夜遅い。遠方の現場までの交通費は給料が出ない
- 基本的に仕事は短納期
- 肉体労働であり、心身共に負担が大きい。力仕事も多数
- 感知器が高所にあると危険作業になることもある
- 人によっては昼夜勤務がある
- 給料が安い
- 顧客と消防の板挟みに合う
- 保守の仕事をしていると緊急出動が発生する など
とはいえ、当然ですけど消防設備のメリットもあります。
ということで、ここからは消防設備のメリットとデメリットを比較していきます。
消防設備士のメリット
消防設備士の最大のメリットは建物が造られる=仕事が発生するということが消防法で義務付けられていることです。
そのため、建設業自体が傾かない限りは仕事がなくて困ることはないので、結果安定している仕事だと言えます。
こうした特性があるので、他産業のように何かの要因で仕事の需要が一気になくなり会社の業績が傾くということは考えづらいです。
また、自火報の着工届を行うには甲種4類の資格が必要なので、資格を持っていれば防災業界の中では市場価値が高くなります。
ただ、甲種4類自体はさほど取得難易度が高いわけではないので、資格を保有していたとしても秀でた強みとは言えないかもしれません。
消防設備士のデメリット
結論、メリットに対してデメリットが多いです。
建物が大規模になると、終日あぶり棒で感知器の試験をして終わることもありますし、消防設備士は建設業界の中では末端になるので新築工事の場合はどうしても建設工事の遅れによって突貫工事になりがちです。
また、リニューアル工事の案件が楽かと言うとそうではありません。
なぜならば、リニューアル案件は新旧のシステムを徐々に切り替えながら併用しなければならず、仕事の難易度が高いからです。
職場環境で言いますと、新築建物とは違って既設建物は天井裏などは埃が凄く、作業着がひどく汚れたりすることもあります。
加えて、感知器の交換などを高所で行う際は身の危険を感じてしまうことも少なくないでしょう。
そして、繰り返しですけど消防設備士の仕事は建物の中で行われます。
リニューアル工事の場合は既に建物内で仕事をする方々がいるわけなので、営業時間外である夜間に作業時間が限定されることもしばしばあります。
会社の人手が充分であれば夜間の現場のみ対応して日中に睡眠を取ることができるでしょうけど、今の建設業界はどこの会社も人手不足なので、どうしても1人あたりの作業量は多くなりがちです。
実際、私は新卒入社していた会社で新築工事とリニューアル工事を掛け持ちし、昼夜連続勤務となっていた人を何人も目にしてきました。
そうなると心身ともに疲れ果てていくものの、業界で末端の消防設備士はそれほど給料も良くありません。
さらに、建設業界の現場では毎日のようにトラブルが発生したり怒号が飛び交ったりと消防設備士で現場監督もしている人は気の休まる時間がほとんどないのが実態です。
このような背景から、仕事は安定して発生しますけど、総じて激務薄給の仕事と言えますので正直オススメはしないですし、人手不足になるのも当たり前だと思うんですよね。
なお、建設業界が人手不足に陥っている理由の詳細については【パワハラ】建設業の人手不足は当たり前。理由5つを10年業界にいた私が解説!という記事で解説しております。興味があれば是非ともご覧ください。
2.消防設備士の仕事が辛いのは建設業界の風習が主な要因
激務やパワハラは建設業界全体の課題
上述の通り、消防設備士の仕事は残業も多く肉体労働なので結構大変です。
こういった不遇に不満を持って転職を考える人も多いですが、不満の内容が「残業の多さ」「精神的な負担」などの場合、空調・衛生・電気などの職人や施工管理に転職しても課題が解決する可能性は低いでしょう。
なぜならば、これらの課題は建設業界全体が抱えている課題だからです。
消防設備士として現場に出ているとわかるのですが、現場ではゼネコンやサブコンの人達のほうが朝早く現場に来て準備を進めていますし、竣工間際の突貫工事はサブコンの管理者も現場に立ち合い時間外労働をすることになります。
実際、転職口コミサイトの転職会議でゼネコン各社の残業時間と従業員満足度(5点満点)を調べてみるとこんな感じ。
<ゼネコン企業の平均残業時間と満足度(5点満点):2023/5/20 転職会議より>
- 鹿島建設:55.4時間、3.60
- 大林組:55.6時間、3.58
- 清水建設:46.3時間、3.40
- 大成建設:61.1時間、3.06
- 竹中工務店:47.5時間、3.43
- 長谷工コーポレーション:47.5時間、3.25
- 東急建設:55.5時間、2.99
- 戸田建設:42.8時間、3.22
- 熊谷組:40.0時間、2.95
- 三井住友建設:38.4時間、3.11
- 安藤ハザマ:41.9時間、3.19
- 五洋建設:54.9時間、3.43
正直、残業は消防設備士の仕事と同じくらいかそれ以上です。
業界のピラミッドの中で最上位であるゼネコンですらこれほどの残業をこなしているワケですので、「上流に行けば楽になる」という考えは持たないほうが良いと言えます。
ですので、もしも消防設備士の仕事に疲れていて「パワハラじみた雰囲気は嫌だ」「残業はほどほどにしてワークライフバランスを整えたい」と感じたとしたら、建設業界に居続ける限りは実現が困難でしょう。
なお、こうした業界全体のおかしいところは【施工管理】建設業界はおかしい!業界で10年勤めた筆者が語る業界の闇【恫喝】という記事で解説しております。興味があれば是非ともご覧ください。
施工管理が激務なのも業界全体の課題
結論、消防設備士の施工管理担当者は激務ですが、他の施工管理担当者も総じて激務です。
マンションの改修工事や地方の現場だと比較的ワークライフバランスが良いという話もありますが、他業界から見ると激務なのは否めないでしょう。
なお、転職エージェントのdodaが発行している2019年の職種別残業時間ランキングですと、施工管理職は残業の多い職種として堂々の1,2フィニッシュでした。
2019年職種別残業時間
1位:設備施工管理 41.6時間
2位:建築施工管理 36.7時間
3位:食品/消費財メーカー 35.9時間
4位:プロデューサー/ディレクター 35.3時間
5位:ITコンサル 34.4時間
6位:土木施工管理 34.2時間
7位:総合商社 34.0時間
8位:設計監理 32.6時間
9位:店長 32.3時間
10位:法務アシスタント 32.0時間
<参照元>
残業時間ランキング2019 ~残業時間が多い職種は?少ない職種は?~ |転職ならdoda(デューダ)
そもそも、建設業界は圧倒的な仕事量のためサービス残業が多い業界です。
今後は、2024年から始まる年間720時間の残業規制が始まりますが、減らない仕事量と減り続ける業界の就労者数などから、ますます激務となりサービス残業が増えていくでしょう。
要因は本当に様々ですが、業界全体として未だに昭和のパワハラ文化があることに加え、安全の徹底という名の下に現場での提出書類がどんどん増えていることも残業を増長させる要因でしょう。
なお、施工管理という仕事の実態については「施工管理はやめとけ」の理由6つ。建設業界で10年働いた私がヤバい実態を解説という記事で解説しておりますので、こちらも是非ご覧ください。
【実体験】消防設備士から転職したら人生が豊かに
これはあくまで私の場合ですけど、私は防災メーカーから異業種に転職したことで大きくキャリアアップを遂げることができました。
ただ、転職したての頃は専門スキルがないことや転職して仕事のスタイルが変わるストレスも相まって正直心が折れそうになることもありました。
けれど、その辛い期間を乗り越えた今となっては当時の環境を俯瞰して客観視できるようになったと思っています。
そして、私が異業種転職をして良かったと思っている具体的な内容はこんな感じです。
<転職して良かった9つの理由>
- 年収がUPした
- 労働時間が減り、家族との時間が増えた
- 自分の時間が増えた
- 休みが増えた
- 尊敬できる人との出会いが増えた
- 新しい価値を生み出す経験ができた
- 仕事が楽しいという感覚が得られた
- 柔軟な働き方ができるようになった
- 自己成長を遂げたいという意識が高まった
おそらく、新卒に入社した会社でずっとキャリアを積んでいた場合、40代を迎えることにはこんな感じになっていたと思っています。
転職しなかった40代の自分
・基本、7:30〜21:00くらいはオフィスで仕事。リモートワークなし
・毎日顧客や上司から詰められプレッシャーをかけられる
・商品クレームがあれば建設現場に出向き謝罪をする
・24時間いつ携帯電話に連絡があるかわからない
・休日もしばしば返上で仕事に費やす
・たまにの休日は半日くらいは寝て終わってしまう
・転職していく同僚を羨み、妬むような卑屈な性格になる
・残業で稼ぐ体質なので、40代で管理職になるとむしろ年収が下がる
今振り返ると「当時の私は相当無理して頑張っていたな」と思うんですけど、当時の自分はこれが当たり前だと思っていました。
今はビジネスカジュアルでリモートワーク・フレックス・シェアオフィスなど柔軟な働き方をしていますけど、当時はスーツで仕事をこなし、出社が絶対という価値観でした。
そもそも、フレックスで働くなんて発想すらなかったので、「会社や業界を変えるだけでこんなに働き方って変わるんだ」と実感しましたね。
そういった経験から、消防設備士としてのキャリアに限界を感じており、建設業界に疑問を持つ方には是非とも異業種転職をおススメします。
ただ、異業種転職の場合は自分が持っている専門スキルは何の役にも立たなくなるのではないか?という疑問をお持ちの方も多いことでしょう。
結論、私も建設業界一筋のキャリアから異業種転職を決断した際は同様の悩みを抱えていました。
けれど、いざ自分が異業種転職をしてみると「案外異業種転職もイケるもんだな」と感じています。
なぜならば、建設業界という厳しい環境で育ってきた人は、自分が思っている以上に耐える力やトラブルに向き合って解決していく力が高いからです。
私自身、特別優秀なわけでもなんでもないんですけど、建設業界で培ったガッツでなんとか異業種転職を乗り切ることができました。
そして、私が経験してきた異業種転職の体験談などは【きつい?】30代で2回異業種転職を経験した私が怖い気持ちの対処法5選を解説という記事で解説しております。こちらも興味があれば是非ともご覧ください。
3.消防設備士の年収
結論、消防設備士の年収は低いです。
地域にもよりますが、300〜500万程度の求人が現在では多いようです。
上述の通り、消防設備士の仕事は建設業界の影響を色濃く受けており激務な割には収入は多くありません。
ですので、悲しいですが多くの場合は激務薄給であるのが実態となります。
防災業界はあくまで建設業界における末端業界
結論、防災業界は建設業界の中では下流にあたるので業界の中では給料が低いです。
能美防災・ホーチキ・ニッタンなどの防災メーカーに入社して毎月100時間超えの残業をすれば1,000万近くの年収も望めるかもしれませんが、それも残業ありきですし、2024年からは残業規制も始まります。
そのため、今後は防災業界のトップである防災メーカーに入社できたとしても、ゼネコンやサブコン社員のように1,000万Overの年収が望める仕事ではないことは抑えておきましょう。
出世競争に打ち勝っていけばもちろん別ですけど、年収1,000万を超えるには部長級の出世が必要となるでしょう。
なお、業界の中で上位の防災メーカーの特徴や比較については【激務?評判は?】能美防災、ホーチキ、ニッタンの内情を元社員が徹底解説!という記事で解説しております。こちらも興味があれば是非ともご覧ください。
消防設備士の年収が低いのは中小企業が多いから
結論、消防設備士が働く防災会社は従業員数10名以下の会社が非常に多いです。
中小の防災会社は建設業界の末端でもあります。
末端の会社は利益を元請けに削られる厳しい環境下ですので、そうなると消防設備士の資格があったとしても年収は低くなります。
なお、全産業で見ても従業員数と平均年収は比例関係にあり、この傾向と同じく従業員数の少ない防災会社は平均年収も低くなってしまうのでしょう。
なお、全産業別の平均年収データにつきましては【多い?少ない?】自分の収入ってどのくらい?あらゆる観点で平均年収を調査!という記事で解説しております。こちらも是非ご覧ください。
4.消防設備士に向いている人の特徴
消防設備士に向いている人その①.同じような仕事に飽きない人
結論、消防設備士の仕事は新しいことが少ないです。
業務を行うために消防法の知識が必要となるので最初は大変だと思いますが、その苦労を乗り越えると後は正直楽です。
良くも悪くも消防設備士の仕事は消防法に守られ準拠しているので、消防法が変わらない限りは業務が劇的に変化することはありません。
ただ、それは逆に言うと新しい仕事にチャレンジできる機会が少ないとも言えます。
ですので、貪欲に新しい仕事にチャレンジしたい人や刺激を求める人には向いていない仕事だと言えます。
一方で、仕事は生きるための手段なので簡単なほうがいいと考える人にとっては消防設備士はマッチするでしょう。
消防設備士に向いている人その②.体力に自信がある人
結論、防災メーカーは激務なので体力自慢の人は大歓迎です。
大規模の現場では感知器のあぶり棒を持って終日歩き回るなんてことも珍しくありません。
体力がないと数日で疲れ切ってしまいますので、体力がある人は消防設備士に向いていると言えるでしょう。
また、上述の通り消防設備士だけでなく建設業界全体が人手不足に悩まされ、実際に一人親方はコロナ禍の影響でかなりの方が引退してしまいました。
一方、建物の絶対量はさほど変わりませんので今後は一人当たりの業務量が増加する可能性があります。
そうなるとますます体力が必要とされますので、繰り返しですけど消防設備士の仕事は体が資本と言えます。
なお、仕事で体力が重要となる詳細な理由については【目指せ一流】ビジネスパーソンに必要なのは心技体よりも体技心【身体が資本】という記事で解説しておりますので、こちらも興味があれば是非ともご覧ください。
消防設備士に向いている人その③.ストレス耐性のある人
結論、消防設備士はサブコンやゼネコンと消防の板挟みに合ったりします。
施工管理をしている防災メーカーの人間もサブコンに言いたいことを言われ続け、業界での立場が弱いが故に、理不尽な要求を呑まされてしまうことも多々あるでしょう。
時には強い口調で否定されることもあるでしょうし、現場では怒号が飛び交うのも茶飯事なので、メンタルがある程度強くないとすぐに心が折れてしまう仕事です。
こういった理不尽さに加えて激務薄給ということもあり、結果として相応のストレスが伴う仕事です。
そのため、ブラック企業での業務経験などでストレスに強い人は消防設備士に向いている人材と言えるでしょう。
その一方で、メンタルの弱い人は消防設備士の仕事はあまり向いているとは言えません。
なお、メンタルが弱い人の特徴は【他責】メンタルが弱い部下の見分け方5点と対処法を解説します【ネガティブ】という記事で解説しております。こちらも興味があれば是非ともご覧ください。
おわりに。
ということで、消防設備士はやめとけという記事でした。
もちろん、最終的には消防設備士という仕事に適合するかしないかが何よりも重要です。
正直消防設備は一見地味ではありますが、人命を人知れず支えている自火報や消火のシステムの社会貢献度は極めて大きいのも事実です。
だからこそ、キツい仕事だと理解したうえで消防設備士の仕事に従事してもらいたいですし、逆にそこまでのモチベーションがないならば他の仕事をしたほうがいくらでも良い仕事はあると思います。
消防設備士の仕事に興味のある方、今消防設備士の仕事をしているけど将来に悩んでいる方は是非とも参考にしてください。
今回は以上です。